
この記事の要点
- BtoB広報は、導入を決める担当者だけでなく、実際に使う現場や採用候補者、取引先にも事業の仕組みと信頼できる根拠を伝える活動です。
- 発信テーマは営業が受ける質問や開発の判断、導入後の現場の変化から探し、専門用語を読み手の困りごとと示せる証拠に言い換えてから提案します。
- 顧客事例や数字は公開範囲と測定条件を確認したうえで使い、業界紙とビジネスメディアで説明の詳しさを変え、営業と同じ公式情報を起点に発信します。
法人向けの設備や業務システムを扱う企業では、製品の性能や仕様をどのように広報の話題にすればよいか、迷うことがあります。発信の切り口を探すには、その技術を使う職場で何が変わるのかに目を向けてみましょう。
この記事では、BtoB広報を始める担当者に向けて、顧客の困りごとからテーマを探す方法を解説します。顧客事例と技術資料の準備、業界紙とビジネスメディアへの提案の違い、営業との情報共有についても、架空の設備監視サービスを例に紹介します。
BtoB広報は事業の仕組みと根拠を複数の相手に伝える
BtoB広報とは、法人向けの製品やサービスを扱う企業が、取引先や業界関係者、採用候補者などに向けて事業の内容と信頼できる根拠を伝える活動です。商品を知ってもらうことに加えて、この会社に相談して問題がないか、継続して取引できる体制があるかを判断してもらう材料を届ける点に特徴があります。
法人の購買では、導入を決める人と実際に使う人が別になることがよくあります。たとえば工場向けの監視システムであれば、予算を持つ部長は費用と効果の説明を求め、保全担当者は日々の点検作業がどう変わるかを知りたがり、情報システム部門は既存設備との接続方法を確認します。同じ製品でも相手によって知りたい点が異なるため、広報が用意する説明も一種類では足りません。
顧客以外の関係者も記事の読み手になります。採用候補者は会社がどんな技術で何を解決しているかを見て応募を検討し、提携先や金融機関は事業の安定性を知ろうとします。業界紙に載った記事が、営業担当者の訪問先で会社紹介の資料として読まれる場合もあります。
BtoBとBtoCという区分は、発信先を固定して分けるために使うと実態に合わなくなります。業務用の製品でも最終的には消費者の生活に影響が及ぶことが多く、倉庫の作業を効率化する仕組みが配送の遅れを減らすといった切り口があれば、ビジネスメディアや一般向けの媒体が関心を持つ可能性があります。反対に、消費者向けの商品を扱う会社でも、販売店や原料の仕入れ先に向けて発信するときは法人の読み手に合わせた準備が必要です。
顧客の困りごとから発信するテーマを探す
発信テーマが見つからないと感じるときは、自社の技術を説明する前に、顧客がどんな場面で困っているかを集めるところから始めます。社内で材料が多く集まるのは、営業担当者が商談で繰り返し受ける質問、開発担当者が仕様を決めるときに迷った判断、導入後に顧客の現場で起きた作業の変化の三つです。
営業担当者が受ける質問は、読み手がまだ知らないことや誤解しやすいことを示しています。古い機械にも後付けできるのかという質問が何度も出ているなら、後付けの手順や制約を説明する内容は同じ悩みを持つ多くの企業に役立つ可能性があります。開発の判断には、なぜその方式を選び何を採用しなかったのかという理由があり、技術系の媒体が関心を持ちやすい題材になります。
集めた話題は技術用語のまま並べず、現場の困りごとと、それを裏付けて示せる証拠に言い換えます。次の表は、架空の設備監視サービスを例にした対応表です。実在の製品や顧客の事例ではありません。
表の右列に何も書けない行は、まだ発信の準備が整っていないテーマです。困りごとがはっきりしていても示せる証拠がなければ、記者は記事にしにくく、読み手も判断の材料にできません。証拠が足りない行は次の章で説明する顧客事例や技術資料の準備に回し、右列が埋まったテーマから提案すると進めやすくなります。テーマが記者にとって新しい情報かどうかを見極める方法は、関連記事で詳しく扱っています。
架空の例:設備監視サービスの技術語を現場の困りごとと証拠に言い換えた対応表
- 振動データの常時監視
- 現場の困りごと
- 夜間に止まったモーターに朝まで気づけず、ラインの再開が遅れる
- 示せる証拠・素材
- 監視画面の画面例、異常の通知が届くまでの流れを示した図、開発担当者による仕組みの説明
- 既存設備への後付けセンサー
- 現場の困りごと
- 古い機械を入れ替える予算がなく、点検を紙と目視に頼っている
- 示せる証拠・素材
- 取り付け手順の写真、対応できる機械と対応できない機械の条件一覧
- 異常の予兆検知
- 現場の困りごと
- 熟練の保全担当者が音や手触りで判断していた内容を若手に引き継げない
- 示せる証拠・素材
- 判定の基準を説明した資料、許諾を得た導入企業の担当者への取材
- クラウドでのデータ集約
- 現場の困りごと
- 複数の工場の点検記録が別々の形式で、本社が状況を比べられない
- 示せる証拠・素材
- 集約前後の記録様式の例、情報管理の方法を説明した公式資料
| 技術語・機能名 | 現場の困りごと | 示せる証拠・素材 |
|---|---|---|
| 振動データの常時監視 | 夜間に止まったモーターに朝まで気づけず、ラインの再開が遅れる | 監視画面の画面例、異常の通知が届くまでの流れを示した図、開発担当者による仕組みの説明 |
| 既存設備への後付けセンサー | 古い機械を入れ替える予算がなく、点検を紙と目視に頼っている | 取り付け手順の写真、対応できる機械と対応できない機械の条件一覧 |
| 異常の予兆検知 | 熟練の保全担当者が音や手触りで判断していた内容を若手に引き継げない | 判定の基準を説明した資料、許諾を得た導入企業の担当者への取材 |
| クラウドでのデータ集約 | 複数の工場の点検記録が別々の形式で、本社が状況を比べられない | 集約前後の記録様式の例、情報管理の方法を説明した公式資料 |
顧客事例と技術資料を公開できる形に整える

BtoBの記事では、導入企業の事例と技術資料が主な根拠になります。ただし、社内で営業資料として使っている事例や数値がそのまま公開できるとは限りません。顧客との契約で開示が制限されている場合や、社内資料の数字が特定の条件でしか成り立たない場合があるためです。
公開する前に、誰がどの情報を確認するかを決めておきます。技術的な説明は開発担当者、顧客との関係は営業担当者、契約上の開示範囲は法務や管理部門というように確認先を分け、最終的に公式情報として出す内容をまとめる担当者を一人決めておくと、媒体から問い合わせがあったときの回答もそろいます。
導入企業に取材と公開範囲を確認する
導入企業の事例を記者に紹介する場合は、先に営業担当者を通じて顧客の了承を得ます。取材に応じてくれる相手が誰か、社名を出せるか、撮影できる場所がどこかによって、提案できる内容が変わるからです。社名を伏せた匿名の事例でも、業種、地域、従業員規模、設備の型番などを組み合わせると、同業者には会社が分かってしまうことがあります。
顧客に確認する項目は、次のように質問の形でまとめておくと依頼しやすくなります。
- 取材に応じられる方はどの部署のどなたで、社名と氏名を記事に出してよいか
- 工場や事務所の撮影はできるか、写してはいけない設備や書類はあるか
- 導入前の課題と導入後の変化について、どこまで具体的に話せるか
- 匿名にする場合、業種・地域・規模のどこまでを記載してよいか
- 掲載前に事実関係の確認を希望するか(対応の可否は媒体ごとに異なると伝えたうえで)
- 掲載後に自社サイトや営業資料で記事を紹介してよいか
数字に分母と測定条件を添える
点検時間の削減や導入社数といった数字は記事の説得力を高めますが、条件が抜けると誤解を生みます。点検時間が減ったのが一つの工場の一つのラインなのか、全拠点の平均なのか、何か月分の記録なのかによって、読み手が受け取る意味は大きく変わります。数字を出すときは、何を分母にしたか、いつからいつまでの記録か、誰が測ったかを同じ資料に書いておきます。
クラスメソッドの広報担当者による記録では、BtoB広報の立ち上げにあたり、公式に発表する仕組みを整えることや、会社紹介に使う数字の数え方と集計時点をそろえることが挙げられています。
導入社数や利用拠点数のように時間とともに変わる数字には、何年何月末時点という形で集計した時点を添えます。営業資料、採用ページ、プレスリリースで別々の時点の数字が使われていると、記者が確認する際に食い違いが見つかり、説明に余計な時間がかかります。
業界紙とビジネスメディアで説明の詳しさを変える
法人向けの事業を取り上げる媒体には、特定の業界の読者に向けた業界紙・専門誌と、幅広いビジネスパーソンが読む経済メディアやビジネス系のウェブ媒体があります。業界紙の読者は専門用語を知っているため、技術の仕組みや他の方式との違いまで踏み込んだ説明が求められます。ビジネスメディアの読者には、業界の背景や、その変化が人手不足やコストといった経営課題とどうつながるかを先に説明する必要があります。
どちらに提案するかは媒体名の印象で決めず、実際に掲載された過去の記事を読んで判断します。製品の仕様を細かく紹介する記事が多いのか、経営者のインタビューが中心なのか、現場の写真や導入企業の声が必ず入っているのかを見れば、自社が用意できる素材と合うかが分かります。現場取材を前提にした媒体に、写真も導入企業の協力もない状態で提案しても、記者は記事の形を思い描けません。
ビルコムの解説記事では、社内で共通のメッセージをそろえること、開発担当者や経営者の人物像を伝えるプロフィールを用意すること、記者の過去の署名記事から担当分野や関心を把握することが挙げられています。
署名記事を読むと、同じ媒体の中でも記者ごとに担当する業界やテーマの傾向が見えてきます。製造現場の自動化を継続して取材している記者には技術の詳細を、働き方の変化を追っている記者には現場の作業がどう変わったかを中心に説明するというように、相手に合わせて提案の入口を変えられます。
提案メールに書く内容を架空例で確認する
次の表は、架空の設備監視サービスを業界紙の記者に提案する場合のメールの構成例です。会社名や内容は説明のための架空のもので、この書き方で掲載されるといった結果を示すものではありません。
この構成例では、最初の段落で現場の変化を伝え、記者がなぜこの話を受け取るのかを一文で説明し、取材で用意できる素材を具体的に書いています。製品の機能一覧や会社概要を長く載せるより、記者が記事の形を判断できる材料をそろえておくほうが、返信がなかった場合でも次の提案に同じ素材を生かせます。
架空の例:業界紙の記者に送る提案メールの構成
- 件名
- 古い工作機械に後付けする振動監視の導入現場について(取材のご提案)
- 最初の段落
- 中小規模の金属加工工場で、設備を入れ替えずに夜間の停止を把握する取り組みが始まっていることをお知らせします。
- この記者に送る理由
- 保全業務の人手不足を扱った過去の署名記事を拝読し、現場の工夫として関連する話題ではないかと考えました。
- 提供できる素材
- 開発担当者による仕組みの説明、取り付け手順の写真、了承を得た導入企業1社への取材
- 数字と条件
- 点検記録の変化は導入企業1工場の3か月分の記録に基づくもので、全体の平均ではありません。
- 連絡先
- 広報担当者の氏名、電話番号、資料の送付方法
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 件名 | 古い工作機械に後付けする振動監視の導入現場について(取材のご提案) |
| 最初の段落 | 中小規模の金属加工工場で、設備を入れ替えずに夜間の停止を把握する取り組みが始まっていることをお知らせします。 |
| この記者に送る理由 | 保全業務の人手不足を扱った過去の署名記事を拝読し、現場の工夫として関連する話題ではないかと考えました。 |
| 提供できる素材 | 開発担当者による仕組みの説明、取り付け手順の写真、了承を得た導入企業1社への取材 |
| 数字と条件 | 点検記録の変化は導入企業1工場の3か月分の記録に基づくもので、全体の平均ではありません。 |
| 連絡先 | 広報担当者の氏名、電話番号、資料の送付方法 |
業界紙とビジネスメディアのどちらにどのテーマを提案するか迷うときは、MdiiiuMの商品PR支援の内容をご覧ください。
掲載数と事業への反応を分けて振り返る
広報活動を振り返るとき、掲載された記事の数だけを数えると、次に何を変えればよいかが見えにくくなります。掲載数とは別に、どのテーマが記者に受け入れられたか、掲載後に営業先でどんな質問が出たか、問い合わせがどの入口から届いたかを記録しておくと、発信の内容を見直す材料になります。
たとえば後付けセンサーの記事が載った後に、対応できる機械の条件を尋ねる問い合わせが増えたなら、条件一覧のページを充実させる理由になります。ただし、同じ時期に展示会への出展や営業の訪問が重なっていれば、問い合わせの増加を記事だけの効果とは言えません。広報の記録では掲載と問い合わせの関係を断定せず、同じ時期に行った他の活動も併記しておきます。
記録する項目は、掲載された媒体と日付、扱われたテーマ、提供した素材、掲載後の問い合わせの件数と入口、営業担当者から聞いた顧客の反応程度から始められます。問い合わせフォームに何を見て知ったかを尋ねる欄があれば、入口の把握に役立ちます。
兼務の担当者が最初の一件を進める順番
他の業務と兼務している担当者が、最初から複数の媒体や多くのテーマを扱うのは現実的ではありません。まずは営業担当者から最近の商談で多かった質問をいくつか聞き取り、その中から一つを選んで、技術語と困りごとと証拠の対応表を一行だけ埋めます。
次に、その行の証拠欄に必要な資料と取材相手がそろうかを確かめ、足りないものを社内と顧客に依頼します。素材がそろったら、そのテーマに近い過去記事を書いている業界紙を一つ選び、記事を読んだうえで提案メールを送ります。一件の提案を通して社内の誰に何を確認すれば素材がそろうかが分かれば、二件目からは同じ流れで準備できます。
まとめ
最初の作業として、自社の製品資料から技術用語を一つ選び、それが顧客のどの困りごとに対応し、どの資料や取材で示せるかを一行の表に書き出してみてください。証拠の欄が埋まればそのまま提案の骨子になり、埋まらなければその欄が社内で集めるべき資料の一覧になります。
よくある質問
- 広報担当者が技術的な内容を十分に理解できていない場合はどうすればよいですか。
- 広報担当者がすべての技術を自分で説明できる必要はありません。記者の技術的な質問には開発担当者が答え、広報担当者は記者が知りたい点と開発担当者が話せる範囲をつなぐ役割を担います。取材の前に開発担当者と想定される質問を確認し、社外に出せない情報が含まれる話題を決めておくと、当日の受け答えが安定します。
- 導入企業が社名を出せない場合、事例を使った発信はできませんか。
- 社名を出せなくても、開発担当者による仕組みの説明や、自社の検証環境で行った試験の結果など、顧客の許諾に頼らない素材で提案できるテーマがあります。匿名の事例を使う場合は、特定につながる詳細を削った文面を顧客に見てもらい、了承を得てから使います。
- プレスリリースを配信すれば業界紙に取り上げてもらえますか。
- プレスリリースは公式の発表を記録として残し、記者に情報を届ける手段の一つですが、配信しただけで掲載が決まるわけではありません。業界紙の記者は、その発表が業界の読者にどんな影響を持つかを見て判断します。リリースとは別に、担当分野の近い記者へ背景や取材で用意できる素材を個別に伝えると、記者が判断できる材料が増えます。
- BtoB広報の反応はどれくらいの期間をかけて見ればよいですか。
- 商材の検討期間や媒体の発行頻度によって異なるため、一律の目安はありません。法人の購買は検討に時間がかかることが多く、掲載直後の問い合わせだけでは判断しにくいため、商談の中で記事が話題に出たかどうかを営業担当者から継続して聞き取り、時間をおいて振り返れるよう記録を残しておきます。
出典・参考資料
記入例・比較表は、考え方を説明するための編集例です。実際の案件や成果を示すものではありません。
この記事の監修者

須平 敦宣
株式会社MdiiiuM 代表取締役・放送作家
「めざましテレビ」「ガキの使い」「徹子の部屋」などに携わる放送作家。株式会社MdiiiuMの代表として企業の広報や商品PRの企画を提案しています。
プロフィールを見る監修範囲:本文・作例・支援範囲を含む今回の原稿について、2026-10-14に須平さんの監修済みとユーザーが確認。。監修日:
MdiiiuMのサービス
商品・サービスのPR相談
MdiiiuMでは、法人向けの製品やサービスについて、発信する話題や切り口、媒体への伝え方、提案に使う資料の考案をお手伝いしています。製品資料や技術資料、営業担当者がよく受ける質問のメモ、公開の許諾を得ている導入事例をお持ちいただければ、それを基にどのテーマから提案するかを一緒に検討できます。定例会議での顧問相談として、契約範囲内で継続的に企画を提案することも可能です。
詳しくは商品・サービスのPR相談のご案内をご覧ください。